葉田甲太 ブログ。

医師 NPOあおぞら代表 5万人の命を守るタンザニア病院建設まで。

僕たちは一体何のために働いているのだろう? 2018年2月11日

 

 

 

 

 

 

f:id:kotahada:20191119201420j:plain

 




開院式の後、現地の助産師さん向けに、カンボジアの新生児死亡のおおよそ四分の一を占めている新生児仮死に対応するための講習会が行われた。

 

 

 


生まれた時赤ちゃん10人のうち1人は、吸入や刺激、人工呼吸などの処置を要する。それに対応して頂くために、現地のプロトコールに合わせた研修を行う事となった。

 

 


受講者の方が、知識を得て理解して、行動を変えて頂いて、赤ちゃんの命を救うまでがゴールだ。

 

 

その達成のために、教育学にも精通した経験もある先生じゃないと、僕では全く太刀打ちできない。

 

 

 

日本の新生児蘇生法を長年教えている、小児科医の嶋岡先生にお世話になる事になった。

 

 

 

そもそもこの講義を作る事自体が、大変だった。

 

 


現地の方は、クメール語しか話せない。スライドを一旦英語にして、またその英語をクメール語にする翻訳作業、分かりやすい様に図面やイラストを作成する事、現地のプロトコールに合わせた新しい新生児蘇生法講習会をつくる必要があった事、何人もの医師や関係者に関わって頂き、ようやく、この講習会を行う事ができた。

 

 

f:id:kotahada:20191119201351j:plain

 


開院式を終え昼食を食べた後、新設された病院の一階部分で、即席のスクリーンにクメール語で書かれたパワーポインターが投影され、まず嶋岡先生から、生まれた赤ちゃんに対して、どの様な処置をするか、座学の授業があった。

 

f:id:kotahada:20191119201344j:plain

 

その後、バックマスク換気の練習、赤ちゃんが生まれてから蘇生までの流れを、シュミレーションを現地の助産師さんと共に、勉強した。

 

f:id:kotahada:20191119201403j:plain

当初は8名ほどを予想していたが、噂を聞きつけた近隣の助産師が当日飛び入り参加して、受講生は20名ほどに膨れ上がった。

 

 

 

既存のサンブールでは、蘇生の道具も壊れていて、10年を越える臨床の中で、助産師さん達はバックマスクによる人工呼吸の経験が一つもなかった。

 

 

 

 

嶋岡先生のおかげで、座学も、シュミレーションは多いに盛り上がり、皆真剣に学んで下さっている様に見えた。

 

 

 

 

 

すべてのプログラムを終え、夕方になった時、嶋岡先生の顔が少し引き締まり、講習会のクロージングをはじめた。

 

 

 

 

なぜ、新生児蘇生法を行うかという、質問が発端だったと思う。

 

 

 

その関連の中で、新生児蘇生法を辞めていい基準、つまり赤ちゃんが亡くなったと判断し医療的な処置を辞める基準を、現地の助産師さんに質問していた。

 

 

 

残念ながら、心臓マッサージや、人工呼吸をしても助からない赤ちゃんがいる。その辞めていい、科学的な基準はどこにあるか、ただそれを知っているか、問いたいのかとその時僕は感じた。

 

 

 

現地の助産師は、パラパラ手を挙げて、答えた。

 

 

「20分蘇生してダメだったら、諦めます」「人工呼吸が・・・「心拍数が・・・」などの答えがでたが、その答えを嶋岡先生は黙って聞いていた。

 

 

 

 

現地の助産師さんも、僕も意図が読めずに、困惑した。

 

 

 

嶋岡先生は、さらに聞いた。

 

 

 

「もし自分で生んだ赤ちゃんが20分蘇生法を行って、反応がないから辞めますと言われれたら、納得して同意しますか?」とも聞いていた。

 

 

 

 

 

 

現地の助産師さんからは、「いや、続けて欲しい。」「20分たって心臓が動いていないなら諦める」等の意見がでた。

 

 

 

 

嶋岡先生は、またそんな、やりとりをじっと聞きながら、最後に口を開いた。

 

 

 


「確かに、赤ちゃんを見送っていい基準は20分と一部決められています。でも、その20分の中で、最善の準備をして、最新の知識を持って、その赤ちゃんの蘇生にあたったなら、僕はその赤ちゃんの命を見送れるかもしれない。だけど、それができていないのに、赤ちゃんを見送る事には、僕は賛成できない」

 

 

 

と、優しい顔をしながら、現地の助産師さんに伝えていた。

 

 

 

そして、座学とは違うスライドを使いながら、説明を続けた。

 

 

 

 

 

大きな構造物が空高く伸びている一枚の写真に、how high is it?と書いてあった。

 

 

 

 

「でも、そう言ったところで、実際に赤ちゃんを救うという行為は、どれだけ難しいのか、どれだけわたし達の目標は、実際に高いのでしょうか。」

 

f:id:kotahada:20191119202233j:plain

 

 

 

次のスライドには、広大な荒野の写真に、how far is it?と書いてあった。

 

 

「でも、実際に、赤ちゃんを救うにあたって、私たち医療者が身につけなくちゃいけない知識はどれだけ広いのでしょうか。」

 

 

f:id:kotahada:20191119202238j:plain

 

 

カンボジア人も、後輩医師二人も、僕も真剣な顔をして聞いていた。

 

 

次のスライドには、子供がイライラして、頭を掻きむしっている写真と共に
We are lost sometimes, conflict and drop of motivationと英語で文字が書いてあった。

 

 

 

「そんな高い目標や、最善の知識や最高の技術を身に付けるのは、もちろん大変でしょう。全力を尽くしても、結果がでず、ご家族に厳しい言葉を投げかけられる辛い瞬間もあるでしょう。私たちは、時々なぜかよく良くわからなくなって、モチベーションが下がりそうになる事も時々あるかもしれません。」

 

 

 


「そんな時は、どうか自分自身に聞いてみてください」

 

 

 

 

「What are you working for?(あなたは、何のために、働いているのか?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後のスライドでは、お母さんが赤ちゃんを抱きながら笑顔になっている写真が、うつしだされていた。そこには、This is what we are working forと書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕たちが働いている意味は、僕たちが新しい技術や知識を身につけるのは、このお母さんと赤ちゃんや、家族の笑顔のためです。僕たちが働いているには、この笑顔のためです。もし、色々な困難な事があり、忘れそうになったら、どうか、この事を思い出してください。僕たちは、赤ちゃんやお母さんのために、技術や知識を身につけているんです。」

 

 

英語からクメール語に翻訳しながら講義をしていたにも関わらず、現地の助産師さんが、泣いている音がした。

 

 

 

 

最後に嶋岡先生が

 

 


赤ちゃんの命を救う事は、この国の未来を救う事です。だから、あなたたちの仕事は、この国の未来を救う仕事です。だから、僕はあなたたちの仕事を誇りに思います。一緒に続けて勉強して行きましょう。これからも赤ちゃんを救って下さい。」

 

 

 

 

と言って講義を終えられた。

講演の後、修了書を一枚一枚、現地の助産師さんにお渡しした。

 

 

 

ある助産師さんが、修了書を取りながら、一言言わせてくださいと話し始めた。

 

「遠いところからわざわざ教えに来てくれてありがとうございました。これから教えて頂いて技術や知識で、赤ちゃんの命を救おうと思います。」と泣きながら話してくれた。

 

 

その現地の助産師さんが、今までの辛い経験や、色々な事があって、泣いていたのかもしれない。

 

 

 

言語も経験も、プロトコールも違う中で、講演をしさらに、泣いている現地の医療者がいる。自分では絶対にできない講演だろうし、アンケートも併せると、その思いと技術が伝わった気もした

 

 

 

 

そして、嶋岡先生の

 

 

「あなたは何のために、はたらいているのか。」それは、自分自身にも問われている様な気がした。

 

 

 

 

そんな単純な事も、時々日々の忙しさで、実際は見えなくなる事があった。医学的な難しい方法論ばかり目について、それが目的化する事もあった。何のために働いているのか、何のために行動しているのか、「現実は・・・」「実際は・・・」「世の中は・・・」と何回も僕は言い訳をしたかもしれない。

 

 

 

でも、そんな難しい方法論の前に、僕たちはいつだって、患者さんの笑顔のために行動しているのだ。

 

 

 


そんな単純な事を、だけども本当は大切な事を、いつまでも覚えていたいと思った。

 

f:id:kotahada:20191119201428j:plain

 (写真の赤ちゃんは新生児蘇生法講習会に使用した人形です。)

【アンケート集計結果】
アンケート提出者 9名

A.参加者の背景
・何年、助産師として働いていますか
25,24,18,25,2,0.5,10,24,23(年)

平均16.83年

・出産にどの程度関わりますか
年に3-5回 1人、月に1度以上 6人、回答なし2人

B.講習
時間は適切か
短い 3人、適正 3人、長い 0人、回答なし 3人

内容は適切か
5,5,4,4,5,5,4,5,5
5点中 平均4.66点 中央値

C.スキルトレーニン
時間は適切か
短い 4人、適正 4人、長い 0人、回答なし 1人

内容は適切か
4,5,5,5,5,5,5,5,5
5点中 平均4.88点 中央値

D.シナリオトレーニン
時間は適切か
短い 4人、適正 5人、長い 0人

内容は適切か
5,5,5,4,5,4,5 回答なし2人
5点中 平均4.71点

E. 総合評価
講習参加前と講習参加後の自信度
講習参加前 2,2,2,3,2,2,3,3 平均 2.44
講習参加後 4,4,4,5,5,4,4,5 平均 4.44

平均2.00点の向上

・他の方に講習を推薦するか
5,4,4,4,5,4,4,5,5
5点中 平均4.4点

<コメント>
次のトレーニングを教えてもらいたい。
もっと実習の時間が欲しい。
看護師関係の新しい知識を教えてほしい。
新しい知識で赤ちゃんの健康を守りたい。

 

f:id:kotahada:20191119202545j:plain




NPO法人あおぞら

npoaozora.org

 

カンボジアラオスタンザニアで母子の命を守る活動を広げるためマンスリーサポーター募集中です!

 

僕たちはヒーローになれなかった。

2019年11月22日発売

印税は全額、カンボジアタンザニアラオスの活動に寄付させて頂きます。
出版社 あさ出版
発売日 2019年11月22日
価格 1430円
https://00m.in/5Eku6
 
 
 
向井理主演『僕たちは世界を変えることができない。』から8年後
映画化後、有名人の様にチヤホヤされて一方で
建設したカンボジアを再訪すると、生後22日目の赤ちゃんを亡くして泣いてるお母さんがいた。
 
自分の無力さ、偽善、キャリアや、収入、なぜ僕たちは働いているのか?
本当の幸せ、自分らしい人生と向き合いながら
カンボジアに病院を建設し、世界の果てに医療を届ける活動を広げるまで。

 

 

向井理さん推薦!
〜献身(ボランティア)とは何か
愚直に自分と向き合う医師の現在進行形の物語〜
 


『僕たちはヒーローになれなかった。』
出版記念 47都道府県全国ツアー 第1弾
葉田甲太(医師 NPO法人あおぞら代表)× 税所 篤快(e-education創設者)
ー大人になった僕たちの今。 国際協力×本出版ー
12月6日イベント詳細

aozorasaisho.peatix.com

12月7日@大阪イベント詳細× 松本浩美(認定NPO法人Homedoor 理事 兼 事務局長)×座間慶彦(NPO法人 NGOクワトロ 理事 兼 事務局長/THE BONDS/株式会社DeNA

aozoraosaka.peatix.com

12月15日@東京イベント ×荒井昭則(NPOコンフロントワールド代表)
ー社会人になってもNPOを続けることー

peatix.com

12月21日@栃木イベント ×嶋岡鋼(新生児科医)

peatix.com