葉田甲太 ブログ。

医師 NPOあおぞら代表 5万人の命を守るタンザニア病院建設まで。

心の中に平穏を。 2015年3月11日

 

 

  

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未だに西部のダルフール地方では戦闘が勃発しているスーダンの首都ハルツームにある

 

NPOロシナンテスの事務所で

「葉田さん、ご飯ですよ~!」と川原さんの息子である健太郎くんの声で起きる。

 

夜中でも30度を超える気温も、なんとか慣れてきた。


最終日の予定であった朝ごはんは、シンプルに味噌汁と、白いご飯だった。前日のアップラーメンに引き続き、こちらもやたら美味しい。

 

その後、丸二日間、シャワーと浴びてなかったので、事務所内にあるシャワーを浴びに向かう。 川原先生の息子と、その先輩である銅治くんが、僕のシャワーを見にきて僕の下半身をみて、あーだこーだ、言っている。馬鹿だなーと思う。でも、そんな馬鹿な人が、僕は大好きだ。

 

 


朝食をすませ、帰りの飛行機まで、スーダンハルツームを観光しようと、街に繰り出す事になった。


事務所の外にでて、大通りまで歩き、乗り合いバスに乗んだ。

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スーダンでは隠し撮りに近い。特に意味はなくても、公的な施設を撮っているスパイだと時々みなされて、カメラを没収されることもあるそうだ。

 



乗合バスに30分ほど乗車して、ショッピングセンターに着いた。中に入ると、、近代的なゲームセンターもあり、一階のスーパーで、どんなものが売っているからみると、ほとんど日本と変わらなかった。ショッピングセンターをぶらつき、せっかく来たなら、フードコートでご飯を食べようという事になった。

 

 

しばらくして、でできたピザは、なかなか、センセンーショナル、アメージング、ミゼラブルな味だった。生地はゴムの様に固く、これはチーズなんだろうかと思うほど、味がしなかった。露店でみんなで囲んで食べたカレーの方が、そりゃ清潔じゃないけれど、美味しかった。なんだか、懐かしくもなった。

 

 

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衝撃的なピザを食べた後、タクシーを停めて、首都ハルツームを流れるナイル川に見に行く事になった。

 


スーダンはアフリカ大陸北東部にあり、エジプトの南にある。エチオピアビクトリア湖から流れるナイル川の分枝が、首都のハルツームで合流し、それを眼下に見る事ができるのだそうだ。

 

ショッピングセンターの前で、タクシーを拾い15分ほど走らせたところで、運転手さんが口を開いた。

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「着いたよ。」


タクシーのいかつい運転手が、ナイル川の合流地点に案内してくれたはずなのだが

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「・・・・・・・・」

砂嵐で何も見えない・・・・



飛行機の時間もせまっていたので、泣く泣く事務所に帰る事になった。

到着して、川原先生に出迎えてもらう。

「川原先生、ナイル川は、砂嵐で全然見えなかったです。」

と言うと

「残念だったね。そして、多分、飛行機も飛ばないと、思うよ。砂嵐で。とりあえず、空港まで行ってみよう」
と、よく分からない返答が返ってくる。

飛行機が飛ばない・・・砂嵐で・・・・・

一応、帰国する準備をして、ロシナンテスの事務所から空港まで向かった。確かに、車内から見ても、前方数mでさえ、全く見えない。車の運転も危ない。

 

 

 

確かに、こんな視界で、まぁ大丈夫だろう、エイや!と離陸される方が困る。

 

 


ハルツーム空港に着くと、案の定、空港中に入れない乗客でごった返していた

 

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空港の職員に聞いても、そっけなく対応され、何時間遅延するかも、フライトがキャンセルになるかさえも、教えてくれない。JALANAで、世界最高のサービスに慣れすぎているのも、逆に問題かもしれない。

 


ヨーロッパ人が、空港スタッフに「今日、仕事で帰らなきゃいけないんだ!」と訴えても「アッサラーム・アライクム(心の中に平穏を)」の一言で、たしなめられてしまう。」

 


なんとか、8時間遅れで、健太郎くんやその先輩である銅治くんは乗る事ができたけど、僕は乗る事ができず、その日搭乗はできなかった。

どうしようもないので、心の中の平穏を保ちつつ、川原さんと、二人きりで事務所に帰る事になった。
事務所に帰る車の中で、世間話をはじめた。

「川原さんは、いつも笑顔で、活動的ですごいと思うんですか、何か悩みとかはあるんですか?」

今聞いたら、ちょっと失礼な質問かもしれないけれど、川原さんはそんな僕に、優しく答えてくれた。


「葉田くん、やばいんだよ。色々、悩みがあって。」

 

予想外の答えだった。

「な、何がやばいんですか?こうやって、実際に実績をだして、僕をはじめとして色々な人の憧れになっている。十分すごいじゃないですか」


「そうなんだけど、色々と、ガッーっとやってきたら、財政がやばいんだよ」
「まじですか?」
「マジ、マジ。」

 

と半分笑っている様な、半分真剣な様な顔で答えてくれた。
たしかに、当時のNPOロシナンテスは、二期連続の、赤字だった。 2014年は、支出が15500万円、収入は、13000万円で、3000万近い赤字となっていた。

「先生、解決策はあるんですか?」
「いまの、ところない!やばいんだよ。」

「とかいって、本当は何か、あるんじゃないですか?」
と冗談っぽく聞くと
「いや、本当にないんだよ!」
川原先生はきっぱりと答える。
「マジですか?」
「マジです。」
「・・・・・・・・・・」

自信をもって解決策がないと言い切る大人を初めてみた。

 

 

でも、きっと川原先生は、こうやって進んできたのかもしれない。目の前の人に何かできないかと思い、リスクを取り、行動し、躓きながら、誰の心を打ちながら、誰かの力を借りながら、誰かのために、進んできたんだろうと思った。


そんな会話を車内でしていると、いつしか空港からロシナンテスの事務所に出戻りした
この日は結局登場できず、なんとか、次の日には、砂嵐がおさまり、搭乗する事ができた。
帰りの空港まで、また川原さんに送って頂いた。

スーダンから、ドバイに向かう飛行機の中で、川原さんに言われた一言を考えていた。

 


「ワシはね、ドキドキしていたんよ。こうやって活動する事で、笑ってくれる人がいて、ただ、それがとても楽しいんだよ。」

 


社会人と、学生は違った。知識も経験も、責任も、ルールも違った。複雑な現実を知った。方法論は、いつでも複雑で、僕を悩ませた。

 


年齢を重ね、段々と、自分の行動に対する、「結果」を予想する様になった。 「結果」が予想できる様になると、デメリットばかり目につき、行動をおこすのが怖くなった

 


それでも、目標はいつだって、同じだった。ワクワクする気持ちは、それだけは、いつも学生の時から一緒だった。

 

 

医療の届かない地域に、医療を届け、人を笑顔にしたい。

 

 

社会人になっても、覚悟を決め、ワクワクを追い求めて、スキルをみにつけ、責任を全部自分でとり、やりたい事ができる様に、やりたくない事も調整すれば、必ずやりたい事はできる。

 

 

それまでの工程が辛くて、僕はずっと、言い訳ばかりで、周囲のせいにして、逃げていて最低だった。そして、力がなかった。

 

 

自分の保身に生きるのではなく、臨床医として、人間として、何ができるか、昔の夢だった現場に挑戦してみよう。

 

 

やりたい事があった。でも始めはやっても上手くいかなかった。自分よりすごい人はたくさんいた。だからこそ、せめて僕はガムシャラに行動すればよかったんだ。情熱だけでは成功はしないけれど、才能がないなら、最後は情熱しかなかったのだから。

 

 

大人になるところは大人になって、子供の様にワクワクしながら、現実に何度でも挑んでみよう。

 

 

そんな事を、スーダンの帰りの飛行機で誓っていた。

 

 

 

 

 

 

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【川原先生から学んだ事 まとめ】

 

 

・テロや紛争のイメージはあるけど、首都のハルツームは比較的安全。

 

・首都には美味しいアイスクリーム屋さんもある。

 

・世界でみると、5歳未満の死者数は下がっているが、2015 年には、未だに推定590 万人の子どもたちの大半が、肺炎・下痢・マラリア等の容易にかつ安価で予防・治療できる疾病で5 歳になる前に命を失っている。

 

・川への水汲み、薪拾いは、女の子仕事。川への往復で4時間、薪拾いで2時間。
学校に行けないケースがある。清潔な水へのアクセスがあれば、女子が教育を受けられる確率が高くなる。

 

・女の子が初等教育をうけると、将来その子供が5年間生き延びられる確率は40%以上も上がると言われる。

 

・世界で、出産した赤ちゃんの内、100万人が、その当日に亡くなる。

 

・Lancet誌によれば、教育を受けた助産師の介助のもと、適切な処置を施せば、40%ほどの赤ちゃんの命を救えると言われている。

 

・国連が発表した2013年時点の世界で妊産婦死亡数はおよそ28万人もいる。

 

・妊産婦を乗せたジャンボジェット機が、毎日2機墜落している計算になる。

 

スーダンで、食べる味噌汁とごはんは、格別。

 

・平和に衣食住が満たされ、朝が来るのは意外と奇跡的なこと。

 

・迷ったら、憧れの人を参考に、手段ではなく目的を思い出す事。

 

・幸せのコツは、人と比べるんじゃなく、自分が決める事。

 

・本当にやりたい事は、ワクワクする事の中から、心で決める事。

 

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「僕たちはヒーローになれなかった。」

 

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向井理さん推薦!


~献身(ボランティア)とは何か
愚直に自分と向き合う医師の現在進行形の物語~

 

 

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映画化以降の8年間の苦悩、悔しさ、涙、仲間の大切さ、出会い、自分の幸せ、収入やキャリア、夢や目標の叶え方、なぜ僕たちは働いているのか?色々なものを詰め込みました。

 

 

NPO法人あおぞらを通じて、印税をタンザニア新病院プロジェクト、ラオスの新生児蘇生法講習会、カンボジアのサンブール保健センター継続支援、グラフィス小学校栄養指導、検診活動等に使わせていただきます。

 

 

医師  NPO法人あおぞら 理事長
葉田甲太

 

 

 

 

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